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東京高等裁判所 昭和39年(行コ)52号 判決 1965年4月30日

控訴人(原告) 石原一美

被控訴人(被告) 東京都知事

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人の昭和三九年五月二〇日付審査請求に対してした棄却の裁決(生活保護法第六五条第二項により、審査請求を棄却したものとみなしたそのいわゆるみなし裁決)を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

被控訴人は、適式の呼出を受けながら、本件口頭弁論期日に出頭しない。

当事者双方の事実上の主張は、控訴人が、「本件裁決が取り消されれば、控訴人は(一)印紙の貼用および送達費を要しないで簡易迅速に審査請求に対する被控訴人の裁決を受けることができるのであり、かつ(二)控訴人の審査請求に対する理由の有無についての判断を受けることによつて、行政不服審査法第四三条の規定による処分庁に対する拘束力を期待することができるのであるから、本件裁決の取消を求める法律上の利益を有するものである。」と述べたほかは、原判決の事実の部に書いてあるとおりである。

理由

当裁判所もまた控訴人の本訴請求は不適法として却下すべきものと判断するが、その理由はつぎの点を訂正附加するほかは原判決の理由に書いてあるとおりである。

(一)  原判決四枚目(記録九丁)裏五行目「行政処分として」から同六行目までをつぎのとおり改める。

審査庁が現実に事案の審査をとげてした棄却の裁決と全く同一視し、これを対象として取消しの訴えを提起することを認容した趣旨とまで解することはできないし、またそう解する必要もないものと考える。

(二)  原判決五枚目(記録一〇丁)裏六行目「いうべきである。」のつぎにつぎのとおり加える。

控訴人は、二、三の事由をあげて右みなし裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有すると主張する。しかしながら、法律上の利益というのは、取消しの訴えの対象となる行政庁の処分といえるものがあることを前提としてその訴えを提起することができる者は誰れか、どんな違法は取消しの理由とすることができないかなどをきめるためのめやすとしてはたらくものであるところ、本件の場合、取消しの訴えの対象となる行政庁の処分といえるものが存しないことは右認定のとおりであるから、控訴人の主張は採用することができない。

以上のとおりであるから、控訴人の本訴請求を不適法として却下した原判決は正当であり、本件控訴は理由がない。

よつて、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 新村義廣 市川四郎 吉田武夫)

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